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【本要約+考察】抽象化を恐れないでください。【DXの思考法】

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※本記事は過去にQiitaで投稿したものを再編集したものです。

【初めに】

こんにちは。ぬかさんエンジニアリングです。今回は、ちょうど一年前の2021年4月15日に文芸春秋から出版されました西山圭太氏著作 『DXの思考法 日本経済復活への最高戦略』 を要約してご紹介したいと思います。
と、ここで本題に入る前に本書をより深く理解するための鍵となるプロダクトをひとつご紹介したいと思います。それは、「三井住友ナンバーレスカード」です。
カードにナンバーが記載されておらず、情報は全てスマホアプリから確認できるタイプのクレジットカードです。便利そうですよね。ですが、本当にそうでしょうか。
この記事を読めば、DXの思考法がわかるだけでなく、その上でこのナンバーレスカードがDXの観点から見て良いプロダクトと言えるのか判断できるようになります。そして、あらゆるプロダクトについてその思考法は通用し、自社のプロダクトなどにも応用可能でしょう。本記事はそんな普遍的なDXの思考法について考えていきます。
それではここから本題です。どうぞ最後までお付き合いください!

【要約内容】

〔構成〕

全九章で構成されている。
第一章:イントロダクション
第二章~第四章:デジタル化によってDXされてつながった社会の構造を議論して、その社会を白地図として描く。
第五章~第八章:描いた白地図に自らを書き込み、デジタル化によって全てが繋がった中で自らのDXでどう社会に影響を与えるか議論する。
第九章:まとめと問いかけと結論
※要約文、及びイメージ図に関しては、書籍に書いてあったことから私がかみ砕いて作成したものですので、書籍の内容とは若干異なる部分がありますがご了承ください。 本記事を読んで興味深く思った方は是非元書籍を買って読んでみてくださいね~!!

〔第一章︰デジタル時代の歩き方〕

世界中でデジタル化による決定的な変化が起こりつつある。
その中で日本は遅れている。遅れを取り戻すためにDXが注目されているが、そのDXは本当のDXだろうか。DX実現のためには基本的な手順やロジックを知る必要がある。 本書のチャレンジは、それをどう伝えるかということである。
本章では、本書がDXの基本的ロジックをどう表現し、伝え、実践に繋げていくのかを説明していく。
まず、DXは双方向であることを伝えたい。
デジタル化がリアルな世界と一体化する時代、経営もデジタル化と一体化し始める中で、システムと経営は双方向に歩み寄る必要がある。これをCX(Corporate transformation) という。
産業全体もそうだ。デジタル化の全面化によって産業が変化していく事を把握する必要がある。本書ではこの産業全体の転換をIX(Industrial tranformation) として掲げる。
次に、IX時代の経営ロジック、デジタル化のロジックを個人と組織の体に刻み込み多くの人が理解する事をDXの本質とし、それをどう表現するか伝えたい。
本書では、第一にこれまでの日本の経営ロジックと新たなロジックの対比することで本質的理解を促し、第二に新しいロジックの図形的表現で分かりやすく伝え、第三に具体例を多用する、というアプローチを取る。その上で、IX時代の地図のようなものを描くことを目的とする。この地図は、自分と他人が繋がり関係し合う相対的なもので、自分が動けば地図が書き換わるというものである。地図はデジタル化によって繋がりあった企業や産業、世界であり、自分は自社であり、自社のDXなどの変化が世界に影響を与えるというイメージを持ってもらいたい。
本書は、2~4章で地図のようなものに自分を書き込む前の白地図、つまり現在のデジタル化の世界がどうなっているかについて議論し、5~8章で自社を白地図に書き込んで地図を書き換えていくとはどういうことなのか、つまり自社の現状とどうデジタル化していくかという実践的考え方とはどういうことなのかについて議論する。

〔第二章:抽象化の破壊力──上がってから下がる〕

白地図を描く前に、これまでの日本の"カイシャ"のロジックがIT産業の新たなロジックに通用しないことを理解する必要がある。
結論、"カイシャ"ロジックには「具体」「深化」という思想、デジタル化には「抽象」「探索」という思想があり、日本はそれを理解できていなかったからIT産業に通用しなかったとあうことである。
もう少し詳しく説明する。
"カイシャ"ロジックは、各会社・事業部にいる熟練社員の持つ暗黙知によって製品を改善し、業界内の会社間、事業部間で競争させることで成長するというものである。そして、時代ごとに業種を変化させながらジャパン・アズ・ナンバーワンにまで辿り着いた。
”カイシャ”ロジック①drawiopng
”カイシャ”ロジック②drawiopng
一方、デジタル化のロジックは、一貫して「単純な仕掛けをつくると、目の前にないものも含めて何でもできてしまうかもしれない」という一般化・抽象化の思想の下にある。
デジタル化のロジックの例drawio 1png
二者を比べると、"カイシャ"ロジックには目の前にある具体的な製品をより良くする解決策を手を探る思想があり、デジタル化ロジックには目の前にある製品から、目の前にない製品まで何でも通用する解決策の手を探る思想があったということになる。
つまり、日本がIT産業に通用しなかったのは、一度具体から抽象化して考え、再度具体に落とし込む、「上がってから下がる」ことができなかったからなのだ。
ビジネスがグローバル化し、世界に拡大する事で世界中の多様な具体的な課題を抽象化して汎用的に捉えるべきことが増えてきた。ここにデジタル化が上手くはまり、時代が進むにつれて課題に対して共通の手法で解を出せる範囲の水位が上がってきた。この水位を上げてきたデジタル化の正体は図形的にレイヤーの積み重ねで表せる。次章では、このレイヤーの話に入る。

〔第三章︰レイヤーがコンピュータと人間の距離を埋める〕

結論、デジタル化の原理は、コンピュータのゼロイチの処理と人間が解いてほしい実課題との距離を埋めることであり、レイヤーを積み重ねることでその距離を縮めていくことである。 さらに、積み重なった深さのあるレイヤー構造を使うことで、適度に良いつなぎ方をしたネットワークのかたちを探索し課題解決が出来るということから、デジタル化は「深いレイヤー構造を使ったネットワーク」とも表現できる。
もう少し詳しく説明する。
まず、レイヤーとは具体的なものを抽象化したものであり、それをさらに抽象化することを繰り返したものをレイヤーの積み重ねという。これは、第二章で登場したデジタル化のロジックを積み重ねたものだと考えて良い。
その上で、抽象化を繰り返すことでコンピュータのゼロイチの処理と人間が解いてほしい実課題との距離が縮まるという意味を考える。
その際にはカレーを例に取るとわかりやすい。
人間の実課題が「カレーを使った料理が食べたい」だとすると、具体的なスパイスを組み合わせてカレー粉に抽象化して、カレー粉と野菜と肉と水を組み合わせてカレールーに抽象化して、カレールーとうどんを組み合わせてカレーを使った料理に抽象化することで実課題を解決することが出来た。
デジタル化でも、同じように「物理層→OS→ミドルウェア→アプリケーション」や「機械言語→アセンブリ言語→高級言語→自然言語」のような形で抽象化が行われ、私達の実課題を解決する方向に向かっているのが、カレーの例と照らし合わせるとよくわかるだろう。
次に、深いレイヤー構造を使ったネットワークだが、これはレイヤー間でつながる弱いネットワーク(繋がったり離れたりしやすいネットワーク)があれば、具体的な課題が与えられたときに適度に良いネットワークのつながり方を探索して、良い解決策を得る事が出きるというネットワークの理論や深層学習の観点で見たレイヤーの積み重ねの捉え方である。
深いレイヤー構造を使ったネットワークdrawiopng
ここまでの議論から、デジタル化のかたちは「深いレイヤー構造を使ったネットワーク」だということになる。
では、この原理がそうだとして、デジタル化の現在地からみてその層は具体的にいくつあり、それぞれどんな意味をなしているとイメージしたら良いのだろうか。これが白地図である。次章では遂に白地図について議論していく。

〔第四章︰デジタル化の白地図を描く〕

結論、デジタル化の白地図を描くには2つの軸があり、いずれもレイヤー構造をしている。 1つはゼロイチで表現できるコンピュータの基本的な機能と人間の実課題とを埋めるためのもので、サービス提供者側やサプライサイドから見た軸である。もう一つはデジタル化に人がどう関わるのかという軸であり、ユーザーやUI/UXから見た軸である。
白地図サービス提供者側drawiopng
白地図ユーザー側drawiopng
サービス提供者側やサプライサイドから見た軸は、現在においては、ハードウェアの急速な進化によってもたらされたクラウド上の巨大な計算処理基盤を一段目、クラウド上でのデータ活用サービスを二段目とする二段のレイヤーで考えられる。今後あらゆるビジネスがデータを活用してソリューションに結び付けていくようになる中でクラウド上の巨大計算処理基盤を使ったデータ収取、結合、収納、転換、解析をする手順が必要になる。これらの手順がレイヤーとして積み重なりそれぞれがクラウドサービス(SaaS)として提供されるようになり、各社は必要なものを選択して使うことが出来る。かつてはベンダーに依頼して0から作っていたものがこうしてレイヤー構造に抽象化することで、各社は自前で作る価値のある部分の開発に集中できるようになった。これが、白地図に自らを書き込むということになる。
一方、ユーザーやUI/UXから見た軸は、ユーザーがサービスを利用するに至るプロセスを広い意味でUIの仕組みと捉えた場合のUIのレイヤーと、ユーザーが得たい経験、つまりUXをミクロな情緒のパターンとマクロな認識のパターンに分解してレイヤー構造に組み立てた場合のレイヤーの両方を含んでいる。
2軸からなるレイヤー構造がデジタル化の白地図だということが分かった。では、その白地図にあなたのビジネスや会社を書き込むにはどうしたら良いだろうか。次章から遂に実践的な方法についての議論に入っていく。

〔第五章:本屋にない本を探す〕

経営者が自社のDXをイメージするなら、ここまでの話を踏まえて白地図に自社のポジションを書き込むというイメージをもう少し具体化させて「本屋の本棚の前に立って見て、そこにない本を探すことをイメージしよう」ということをオススメする。まずは世界の主要プレイヤーによるサービスやテクノロジーからデジタル化の現在地を理解し、これを本屋とする。
本屋にない本を探すデジタル化の現在地drawiopng
次に、自社のビジネスに関係する領域をその領域の本棚、この領域に関係のあるプロダクトやサービスを本として、その本棚はどんな本で埋まっているか棚卸しして確認していく。そして、現在の自社のビジネスのシステム構成を自社の本として本棚に入れてみて他の本との被りが無いかなどの課題を見つける。その上で、自社の目指す価値を実現するために必要なもので本棚に足りないものを特定し、最も可能性のありそうな本を自社で開発する。このとき、はじめてデータ、人材、組織について考える。開発する際には、他社が自社の本をプラットフォームとして使うことも考えて開発する。こうして、他社の本を使い倒しつつ自社の本を組み合わせて目指す価値を実現していくことがDXである。
本屋にない本を探す関係領域drawiopng
このとき、他社が開発した本を使って自社の目指す価値を実現し、自社が開発した本を使って新たな他社の目指す価値を実現するという抽象化のレイヤーが積み重なり続けていると考えると、これまでの内容との繋がりがよくわかる。
ここまでの話は、一部のソフトウェアメーカーなどのIT企業にしか通じない話なのではないのか。そう思った方もいるかもしれません。次章では、他の産業でもこの手法が当てはまるのか議論していく。

〔第六章:第四次産業革命とは「万能工場」をつくることだ〕

第四次産業革命は万能工場をつくることである。かみ砕くと、デジタル化の行き着く先は、製造業全体がレイヤー構造をしたソフトウェアとなり、3Dプリンターの様に読み込むデータによって何でも作れる万能工場を作るということである。前章に照らし合わせて言えば、製造業全体で各工場が製造技術を使い倒し合い、足りない部分を開発し合う事で何でも作れる万能工場ができるということになる。
本書では更に、第四次産業革命が起こそうとしているのは万能工場を超えたサイバー・フィジカル融合であると考える。サイバーとフィジカルの融合とは、あらゆるデバイスがインターネットで繋がって、全ての人工物が生命体の様にシステムに従って受け取った環境データから学習して処理するようになり、五感によって受け取った情報から学習して処理するフィジカルのシステムを持つ人間と融合していくということである。
サイバーが完全にフィジカルに追いついて融合できるかというと難しく、フィジカルがサイバーに完全に置き換わることはないが、その上で、デジタル化のロジックに従ってリアルをパターンに分解し、世界をパターンの組み合わせで理解するロジックを身に着けていることがDX力である。
ここまでの内容から、自社のDXに取り組むあなたは会社の将来像を描こうとしているかもしれない。しかし、サイバー・フィジカルの全体を表現し、変化の可能も取り込み、データを提供したくなる価値に繋げなければならないとなると、とても一枚の図では表現できなさそうだと思うだろう。次章では、複雑で「ややこしい」ものを上手に表現するために研究されてきたアーキテクチャについて議論していく。

〔第七章:アーキテクチャを武器にする〕

結論、アーキテクチャとは、ビジネス、産業、社会を複雑なシステムとして捉え、これらのシステムが内包する多面性、不確実性、錯綜する利害と言った「ややこしさ」をソフトウェアのロジックを基本において立ち向かおうとする考え方、アプローチである。
もともとアーキテクチャとは、ハードウェアを中心に構成されたシステムに関するアーキテクチャと20世紀以降に登場したソフトウェアアーキテクチャの二つの分野があるが、サイバー・フィジカル融合が進む現代ではこの二つの分野を真にひとつのものとすることが求められているため、本章では混然一体として説明する。
では、まずこのややこしいシステムを目の前に我々はどうすべきなのか。それは、課題から考えることである。 課題から考えるとは、問題に対する解決策を考える前にまずその問題が解決したい課題を考えること。
課題から考えるdrawiopng
もう少し詳しく説明すると、問題はあくまで課題を解決する一つの具体的な方法として捉え、もっと自由に課題の解決策を考え、最終的にたくさんの選択肢から具体的な課題解決策を選択するということである。
次に、どう立ち向かおうとしているのか。それは、レイヤー構造の意味を掘り下げて考え、新しい見方に到達することである。
まず、レイヤー構造の意味を掘り下げてみる。すると、一つのレイヤーは同じレベルにある複数のコンポーネントが並んだものであることがわかる。コンポーネントとは、具体的なモノ自体ではなく、モノの変換を行う一つの塊のことを言う。
これが積み重なったものがレイヤー構造である。
ラーメンで言うところの、「好みの硬さに麺を茹でる」と「好みの濃さでスープを作る」と「一杯分の具材を用意する」が同じレベルのコンポーネントであり、一つ上のレイヤーに「全ての具材をラーメンどんぶりに盛り付けて美味しいラーメンを完成させる」があるというようにイメージしてもらうと分かりやすいだろう。
コンポーネントとはdrawiopng
それから、レイヤー構造の抽象化の意味を掘り下げてみると、コンポーネントによって変換されたものから、どう変換されたかという自明な情報を「言わずに済ませる」ことを抽象化(インターフェイス)と言い、一つ下のレイヤーのコンポーネントを呼び出す際にそのコンポーネントでどう変換されているか「聞かずに済ませる」のも抽象化と言う。
ラーメンで言うと、「好みの硬さに麺を茹でる」というコンポーネントは茹でる事が自明なので「麺」とだけ表記するのを「言わずに済ませる」と言い、「全ての具材をラーメンどんぶりに盛り付けて美味しいラーメンを完成させる」レイヤーから「麺」の硬さや「スープ」の濃さをわざわざ確認しないのを「聞かずに済ませる」と言う。
これらを理解すれば、複雑なシステムをレイヤーに区分けし、そのレイヤーの中のコンポーネントを十分細分化していけば、各レイヤー間のコンポーネントの組み合わせ方によって各々の課題に適したパターンを発見することが出来ることがわかる。
こうしたレイヤー構造にデータを通して何度も変換させ、その差分であるコンポーネントを足していけば最終的に企業が提供したい経験や価値、つまり最初に考えた課題の解決につながるので、経営者や政治責任者こそがアーキテクチャを理解しなければならない。 これを理解して具体に捉われた癖を矯正すれば、アーキテクチャを武器としてややこしいシステムを構築し、価値を実現できる。
ここまでソフトウェア・アーキテクチャについて議論してきたが、このアーキテクチャは、我々の街、暮らし、社会、政府のあり方にも関係し始めている。次章は企業や産業を超えた政府について議論していく。

〔第八章:政府はサンドイッチのようになる〕

ここまでで、デジタル化によってレイヤー構造のかたちをとったエコシステムが生まれ、サイバー・フィジカル融合を経てあらゆる企業がそれと関わるようになっていくということを説明した。では、企業やビジネスを超えた社会全体やそのガバナンスという観点から見たとき、レイヤー構造のかたちをとったエコシステムをどう捉えるべきなのか。 本章ではそのヒントとなる考え方から議論する。
同じシステムの中に別の一定程度独立したシステムがあるという関係を 「システムズ・オブ・システムズ(以下:SoS)」 という。
このSoSは一般的に4つの類型に分類される。より上位のシステム(SoS)が下位のシステムに対してどの程度コントロール、指揮命令権を持っているか、という軸に沿った分類である。
権限が強い順にA→B→C→Dで表すと以下のようになる。

◆A類型(Directed)◆

集権型。下位システムは独立したオペレーションが潜在的には可能だが、通常はSoSの指示命令に従って運営されている状態。

◆B類型(acknowledged)◆

認証型。SoSには目的、運営責任者、運営資源がある。下位システムはSoSとの合意に基づいて運営されるが、独自の目的、所有権、財源があり共存している。フランチャイズやECモール、アプリストアなど。

◆C類型(collaborateve)◆

協調型。下位システムは自主的にSoSへ参画する・しないを判断する。SoS側が規格を定め、それに従って下位システムが参画することを認めるか否かを決める。インターネットなど。

◆D類型(virtual)◆

見えざる手型。SoS側には明示されてた目的も管理者も無いが、下位システムの相互作用の結果として、ある種の秩序が立ち現れるという特徴がある。市場など。

今後社会がシステムだらけになり、誰もがSoSに関わるのという観点から、社会上記の分類を下敷きにのガバナンスのあり方や政府の位置付けを議論することができるのではないかというのが筆者のアイデアである。
まず、以上の4類型のうち、A類型を国家や法律、D類型を市場だと考えれば、これまでのガバナンスの発想ではBやCの類型に注意が払われていなかったということになる。官民という二分法的な理解がまさにそうである。
しかし、今後の社会のガバナンスを展望するとBやCの類型の比重が高まると考えられる。インターネットやアプリストアなどがその象徴である。
ただ、それがガバナンスという意味でのSoSの「ややこしさ」の原因となっている。
この「ややこしさ」に立ち向かうには、結論、社会全体をレイヤー構造をとして捉え、アーキテクチャという手法を武器にすべきである。 なぜなら、BやC類型の「ややこしさ」の正体はレイヤー構造だからだ。
そうは言っても、企業経営とは異なる政府はレイヤー構造とどう関わればよいのだろうか。
それはサンドイッチである。 説明すると、民間にある既存のレイヤー構造に政府が新たなレイヤーを差し込むことで全体のエコシステムが持つ効果を変えようということを、既存のパンに具材を差し込むことでサンドイッチに変えることに例えている。
これは、市場のメカニズムでは十分供給されない財を政府が公共財として提供することで社会をコントロールするものとは異なり、既にある民間のインフラが構成するレイヤーに溶け込む形でインフラをコントロールするという関わり方である。
この考え方をに日本社会に落とし込むとすれば、地方のデジタル化やガバナンスのあり方がいいかもしれない。ローカル経済圏では、人口減少下で教育、医療、交通などの地方密着型のサービスを継続するという大きな課題がある。
そこで、ローカル経済圏の基盤となる、システムでデータを共有するレイヤーをつくり、その上に教育、医療、交通などのアプリケーションがある状態をつくる。さらに、データ基盤やアプリケーションもいくつかのレイヤーやコンポーネントに分かれており、それらのコンポーネントを地域特有ではなく本棚に既にある本を組み合わせたものにする。こうすることで組み合わせによって各ローカル経済圏の特色を活かしたソリューションを生み出すことができる。
全国では、公的サービス、規制領域から、いずれは政府全体をレイヤー構造、サンドイッチと捉え直し、更に発展させ、地方での取り組みと組み合わせられれば、「ジャパンスタック」を構想できると考える。そうした時代がやがて来ると予想される。
今後の政府はA類型の法律とBやC類型のアーキテクチャのダブルバインドになり、その設計・運営にはソフトウェア・アーキテクチャの理解が不可欠になるという問題意識のもと、「デジタル・アーキテクチャ・デザイン・センター(CADC)」が作られた。ミッションは3つある。
一つ目は、公共サービスや規制領域をソフトウェア・アーキテクチャをベースとしたものにするために各省庁の依頼を受け、密接なコミュニケーションの下で、各省庁のタテ割りを超えてアーキテクチャを設計すること。
二つ目は、アーキテクチャの設計は官民の中間領域であり個社の利害が関わるので、その行事役を果たすこと。
三つ目は、実際の開発プロジェクトや分野を超えた多様なプロジェクトの経験ができる武者修行の場を設け、アーキテクト人材を育成すること。
このセンターに官民から武者が集い、いずれはIXの実現と政府のあり方の転換の触媒の役割を果たすようになること、そして「ジャパンスタック」を実現することに貢献することを念じてやまない。

〔第九章:トランスフォーメーションの時代〕

今何か「決定的変化が起こりつつある」。 これは、ゼロイチしか理解できないコンピュータの物理層を基礎として、その能力を人間の実課題の解決に繋げようというデジタル化の取り組みが今ある推移に達し、会社、ビジネス、産業、社会のあり方を次々に転換し始めているということだ。そして、それはレイヤー構造をしておりソフトウェアの持つかたちそのものである。
詳しく説明すると、下段は計算処理能力を支える層、上段は大量のデータを分析するデータ解析の層という二段のかたちを取るクラウドサービスというソフトウェアが、人間がどのような経験をしたいかという実課題と直接接するようなアウトプットをできるようになったのである。
このようにデジタル化の水位が閾値を超えたことで、二つの波及が起きている。
一つ目は、コンピュータやソフトウェアが担う範囲が個別のデバイスから飛び出して互いに繋がり、社会システム全体に浸透した結果、ビジネス、産業、社会のかたちをソフトウェアの持つ形に近い形に変貌させようとしていることである。
二つ目は、IoTとAI、ディープラーニングの組み合わせによって、人間が作ったシステムが環境データを読み込んで自己改良する生命体に近いメカニズムを体現し始めていることである。
これら2つの波及を合わせたものをサイバー・フィジカル融合といい、第四次産業革命の中核を成している。
この波及の全体像を違う角度から見ると、技術、発想・ロジック、産業・社会システムの三者の相関関係している状態だと考えられる。発想により技術が進歩した結果社会が変化し、そこから新たな発想が生まれる。このように影響し合うことで波及していっているということだ。
ビジネスに絞ってみると、デジタル化のレイヤー構造と、レイヤーが積み重なり社会に波及することで発生したユーザーから見たレイヤー構造(UI、UX)の二軸からなる白地図のようなものがあると考えられる。GAFAなどの巨大企業は、この白地図の中でより全体に影響を及ぼしうるレイヤーを自ら創出する戦略を取っている。日本の経営者は、白地図の中で自社のビジネスの競争環境にあるレイヤーを見渡し、既に他社が開発したプロダクトがあれば使い倒してメリットを享受しよう。そして、レイヤーに足りない部分があれば、その部分を満たす部分を開発して価値やソリューションを生み出すと同時に、他社も利用できるプラットフォームになる様にしよう。
日本の産業全体でも同じようにSaaSなどの形で世界にプラットフォームを提供し、レイヤーの足りない部分を埋め、レイヤー自体の形を変えていく事が求められる。日本の産業に与えられた機会はそれしかないので、大企業とスタートアップとのパートナーシップのもとにSaaSをつくり、IXに繋げるしかない。
白地図を理解した上で、上手に地図の上を歩くためには身に着けているべきコツがある。
それは、IX時代に必要な発想とロジックを持っているかということである。
あなたがコツを掴んでいるかは、3問のテストをすればわかる。

◆第一問◆

部下が持ってきた解決策に対してどう対処していますか?
あれこれチェックして手直しし、その足し算をしようとしていますか。それとも、課題を自分で理解し、自分の言葉で部下にそれを伝えようとしていますか?
後者を選んだあなたはコツを掴んでいます。
これは、問題が与えられたときに、その問題は本来どんな課題を解決する事を指しているかを考えられているか、つまり「課題から考える。解決策に囚われない」ができているかを問う問題でした。

◆題二問◆

あなたがビジネス当面する事態について、部下を前に「難しい話だから関係する部署ごとに分担して具体的なファクトを持ち寄ってくるように」と言いますか?それとも、「今起こっている事態は、自分の経験と見聞だと〇〇に似ているから、従って次の三つがポイントになるがどう思う?」と言いますか?
後者を選んだあなたはコツを掴んでいます。
これは、多面的で不確実性の高い事態の「ややこしさ」を、更に細分化、場合分け、工程表や編成表して一層手に負えなくするか、まず抽象化して考えられるか、つまり、「抽象化する。具体に囚われない」ができているかを問う問題でした。

◆題三問◆

あなたは「ややこしい」ものを捉え、それに働きかけるにはどんな武器を持っているといいと考えますか。
「ややこしい」ものに対する知識を深めた専門性だと思いますか?それとも、「ややこしい」ものの他の分野からヒントを得るために多様な分野について学んだマルチな知識だと思いますか?
後者を選んだあなたはコツを掴んでいます。
これは、前例などの世にあるルールに頼らず、複数の分野や複数の組織を経験した中から共通のパターンを見つけられるか、つまり、「パターンを探す。ルールや分野に囚われない」ができているかを問う問題でした。

あなたはいくつできていただろうか。
今の日本の企業そして行政のリーダーが問われているのは、この三つの問にどう答えるかであり、正しく発想できるリーダーをどう育成・選抜するかである。
最後に、ここまで問うてきた新たな発想とロジックは時代の精神であると伝え、本書を締めくくりたい。
新たな発想とロジックとは、抽象と具体を行き来し、そしてパターンで物事を捉えること。 前者は異なる次元を跨いで考え、後者は分野を跨いで考えるための手立てだ、と言える。
そして、次元や分野を跨いで物事を捉えることが我々の生きていく時代の特徴なのだとしたら、求められる発想自体がトランスフォーメーションを内在しており、そう考えれば形容抜きのトランスフォーメーションの時代であるのだ。
今何か「決定的な変化が起こりつつある」。 この時代に我々は、新しい発想とロジックで我々が生きている世界をよく知り、それに深く関わろうとしているのだ。それこそが 「DXの思考法」 なのである。

【ケーススタディ】

ここからは、冒頭に紹介した「三井住友ナンバーレスカード」について、ケーススタディとして本書の内容と照らし合わせながら考察していきたいと思います。

〔三井住友ナンバーレスカードとは〕

まずは下記のHPを見てください。
メリットを一言でまとめると、利用に必要な全ての情報をカードから排除してバキバキにセキュリティが高いといったところでしょうか。排除された情報は全てVpassという専用アプリから確認できるので、番号が分からなくて不便になることもありません。

〔抽象化を恐れざるを得なかった例〕

ただ、ここまで記事を読まれた方であれば「あれ、セキュリティ強化ならそもそもカード要らなくね??」と思ったはずです。そうですよね!?カード情報を専用アプリから見れるならそのアプリでバーコード決済できるようにするなり、アプリとApplePayやGooglePayと連携させてスムーズに決済できるようにするなりすればもっと便利だし、そもそも物理的なカードが無ければ盗まれる心配もない訳で、ナンバーレスカードがやろうとしていたことは全てカードレスが上回ってしまいます。
これは、第二章で扱ったこれまでの日本が得意としてきた具体的なプロダクトを改善しようとしてデジタル化に失敗したパターンじゃないか、もしくは第七章で扱った課題から考えることができずに具体的な問題に対して解決策を考えてしまったパターンではないかとそう考えられますよね。
第七章に出てくるカレー専門店の例をこのカードに変換すると以下のようなイメージになります。
三井住友ナンバーレスカードの課題drawiopng
つまり、クレジットカードの番号が他人に見られる問題はセキュリティを強化しなければいけないという課題に抽象化して考えてみれば物理的なカードから離れたほうがより良い解決策にうながったはずなのにそれが出来ていないということです。物理カードをデジタルにトランスフォーメーションできなかった訳です。
と、ここまで三井住友ナンバーレスカードを例にDXの思考法を使ったケーススタディをしてきましたが、これは全く複雑なレイヤーの話ではありません。アーキテクチャを考えるまでも無くわかることです。もちろん、三井住友もわかっています。ナンバーレスカードが2021年2月に発行開始されてから8か月後、2021年10月にカードレスの発行をスタートさせました。
カードレスでは、アプリで情報管理ができて、ApplePayとGooglePayと連携して 「Visaタッチで決済」 で決済可能です。スマホを出してタッチするだけなので、カードを財布から出す手間も無くUI面でもこちらの方が優秀です。
ただ、「Visaタッチで決済」 未対応の店舗がまだまだあること、ATM利用(キャッシングサービス)が国内外で受けられない事、店舗での分割払いの指定が出来ないことなど、いくつかカードレスにもデメリットがあり、普及と改善の必要があります。その改善が進むまでのつなぎ要員としてナンバーレスカードを作ったというのが無難な考察だと思います。加えて、クレジットカードを完全にデータ上の存在にする前段階としてアプリを連携させるというステップを踏んでもらうことで、デジタルに疎いがスマホぐらいは持っているという層に慣れさせるという目的もあるのかもしれません。

〔どうすればよいのか〕

もし、ナンバーレスカードが出来た理由がデジタルに疎い人に慣れさせるためだという仮説が本当だとすると、消費者向けサービスをDXするには、まず消費者にフィジカルもサイバーも融合していく時代であることを理解してもらい、慣れさせるための余計なプロダクトを作らないといけないのかもしれません。そう考えると、まずはビジネス向けのSaaSで職場環境からDXを推進し、社員が業務としてそれを主体的に使いこなせるようにさせ、DXの思考法に慣れてもらうことでじわじわと日本社会にDXを浸透させる方が長期的に考えて効率的なのかもしれないとも考えられます。DXの本質とは、IX時代の経営ロジック、デジタル化のロジックを個人と組織の体に刻み込み多くの人が理解する事 だと第一章でも述べられているので、あながち間違いではない考察なのではないかなと自己満足したところで記事を終わりにしたいと思います。

【終わりに】

いかがでしたでしょうか。DXの思考法とは、抽象と具体を行き来してパターンで物事を捉えることでした。そんな発想とロジックをもって我々が生きる世界を知り、深く関わろうとしていくことが今問われているのだと、私はそう受け取りました。皆さんはどう感じましたか。感想などありましたらコメントして頂けると嬉しいです。

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